情報提供: ディスカバーたいはく3号
 所在地: 仙台市太白区茂庭
 連絡先: 太白区まちづくり推進協議会
 関連ホームページ: http://www.city.sendai.jp/taihaku/mati/discover/index.html

227 お篠(しの)峠

 昔、赤石にお篠という気立ての優しい嫁御がおった。ある日のこと、お篠は用事が出来て隣村の碁石に行くことになった。赤ん坊をおんぶして上り下り八町もある峠道を越えて行かなければならなかった。やっと峠を上りつめた所の木の下にみすぼらしい衣をまとった坊さんが倒れていた。痩せこけて苦しそうな様子だった。
「お坊さんどうしたのっしゃ」
と声をかけたら、かぼそい声で
「水を恵んで下さらんか、水をー」
といったので、お篠は抱き起こして竹筒の水を飲ませてやった。
「どなたか存ぜぬが、かたじけない、有難い事じゃ」
といって、また力なく横になってしまった。
 お篠は坊さんを何とか助けたいと思ったのか、後を向いて自分の乳をしぼり少しずつ竹筒にため始めた。
「お坊さん私の乳だげんど飲んでけさいん。なんぼか元気出っぺがらー」
と飲ませてやった。坊さんは、コックンコックンと目を細めながらうまそうに飲んだ。

 お篠は、次の日も、また次の日も乳をしぼって峠道を通って飲ませてやった。けれども、坊さんは段々痩せて行くばかりだった。

 そうしたある日、坊さんはお篠の顔をじっとみながら、低い声で
「そなたは、拙僧にとって御仏の使者じゃ。これをお礼に差し上げたい」
と、懐から金包みを取り出し無理矢理お篠に渡して息を引き取った。
 お篠は泣きながら村に戻り、村人に相談してみんなで坊さんの墓を建てて供養してやった。
 その後、村人達はその墓のことを乳孝(ちこう)が墓と呼び、この峠をお篠峠というようになった。

   


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