情報提供: ディスカバーたいはく5号
 所在地: 仙台市太白区秋保町
 連絡先: 太白区まちづくり推進協議会
 関連ホームページ: http://www.city.sendai.jp/taihaku/mati/discover/index.html

74 二口と井上ひさし

 平成十一年三月にオープンした仙台文学館(青葉区北根)の名誉館長となった井上ひさしは、仙台一高出身、仙台で思春期を過ごしました。
 『青葉繁れる』は仙台一高時代を描いたものですが、その中に大東岳が登場します。


現在の二口峠
現在の二口峠

 こんなくだらないことを考えてばかりいるので、暗記の勉強はなかなかはかどらなかった。それでもやっと五頁ほど進み、五頁最下段の『accompany』を暗記しているところへ、ユッへが大東岳という近くの山に登らないかと誘いにきた。一四〇〇米足らずの低い山で一泊で充分だという。稔は山はあまり好きではなかったが、考えてみれば『accompany』には「〜に同伴する」という意味がある、ちゃんと豆単に肉太活字でそう載っているのだ。これもなにかの因縁ではあるまいか、と稔は思ったので、ある土曜の朝ユッへに同伴して大東岳へ向い、日曜の朝、その頂上からの日の出を拝んだ。その登山行に豆単を携帯して行った稔は、途中の山道で、『accompany』に続く『accomplice』と『accomplish』のふたつの単語を完全に暗記することに成功していたので、大東岳の頂上でユッへに、「おらだはついに大東岳登頂をaccomplishしたのすね」と言った。「なんだっぺ、その外国語は?」とユッへが訊いた。「アカンプリッシュ、英語で成し遂げるつぅ意味っしゃ」と稔は得意そうに答えた。
 その日の夜、二口峠を越えて山寺へ下りた二人は、駅前のそば屋で腹ごしらえをしてから、自分たちの町へ向う最終列車に乗った。
(文春文庫『青葉繁れる』より)

   


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