情報提供: ディスカバーたいはく4号
 所在地: 仙台市太白区秋保町
 連絡先: 太白区まちづくり推進協議会
 関連ホームページ: http://www.city.sendai.jp/taihaku/mati/discover/index.html

54 上人洞

 むかし、大行沢(おおなめさわ)の先の崖のうえに、洞窟があった。
 いつのころからか、樵(きこり)たちのなかで、この洞窟の前で上人(しょうにん)さまを見たという者があらわれた。
 ある冬のこと、野尻に向かう旅人がこのあたりで日が暮れ、降り積もる雪のなかで困惑していたところ、読経が聞こえ、その方角にいってみると、とつぜん、白髪の老僧があらわれた。
「案内してしんぜよう」
という老僧の後へ従うものの、疲労のために足がもつれ転んでしまう。そこに差しのべられた老僧の手をつかんだ瞬間、思わず声を上げてしまった。なんと、その手の冷たいこと。雪よりも冷たかった。
 しばらくいくと、老僧が手をはなし
「ここが大行沢、ここまでくれば大丈夫」
という。旅人が礼を述べ、頭を上げた時には老僧の姿は闇に消えていた。
 旅人から、この夢のような出来事を聞いた村人たちは、「やはり、上人さまが修行していらっしゃったか」と語り合った。

 いくたびかの春秋がすぎ、その間も変わらず読経の声が聞こえていた。ある日、樵たちがありがたいお話を聞こうと洞窟に入ったところ、どうだろう。待っていたのは、老僧の遺骸と、すっかり色あせた観音像の掛け軸と経文数冊だった。
 樵たちが遺骸と遺品を手厚く葬ってやったところ、それからは、読経の声が聞こえなくなったそうだ。

   


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