情報提供: ディスカバーたいはく4号
 所在地: 仙台市太白区秋保町
 連絡先: 太白区まちづくり推進協議会
 関連ホームページ: http://www.city.sendai.jp/taihaku/mati/discover/index.html

52 雪女(ゆきおなご)

 むかし。伊達勢との戦いにやぶれ、落武者となった最上方の権十(ごんじゅう)と巳之助(みのすけ)が雪の中を逃げていた。やがて窯小屋の灯が見え、
「ごめんくだせい、道に迷っておりますだ」
と声をかけると、意外にも小屋から出てきたのは年の頃三十二、三の女だった。
 刀を帯びた物々しい風体の男たちに一瞬ギョッとし、
「お前さま方は・・・」
「俺たちは落武者だが、つかれきっているので、すこし休ませてもらえめえか」
「せっかくだが、亭主が郷にいっているし、食い物もねえ・・・」
と困ったようすだったが、頭を下げ頼む二人に、女は中に入れ、窯の前にむしろをしいてくれた。
 目がなれてくると、女房は夜目にも美しい女だった。権十は乾飯(ほしいい)を食いながらそんな女房の姿をあかず眺めていたが、やがて、二人とも崩れるように寝込んでしまった。

 ふと、巳之助が目を覚ますと、だれか目の前で組み合っているではないか。どうやら権十と女房のようであった。
「人の親切も忘れて私の体を自由にするべなんて、とんでもないやつだ!」
気の弱い巳之助はただ動転するばかり。そのうち、女房が権十の急所でもけんなぐったのか、突然、権十が
「ヒエー!」
と呻き声をあげ、
「巳之助!起きろ!雪女だ!化け物だ!」
と、脱兎のように小屋を飛び出していった。

 巳之助も、驚いて権十の後を追う。
「この寒さでは、外は凍え死ぬからだめだ」
という女房の声を背に闇の中へ、どんどん山へと登っていった。権十の姿も今はなく、雪はますます降りしきるばかり。突然、崖からズルズルとすべり落ち、深い渓へ―
(ウァおれはもうだめだ、しかしあの女は本当に雪女だったんだろうか、いや優しい人だった・・・権兄ィが悪い・・・)
そんなことを考えながら、巳之助の意識は次第にうすれていった。

   


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