情報提供: ディスカバーたいはく3号
 所在地: 仙台市太白区秋保町
 連絡先: 太白区まちづくり推進協議会
 関連ホームページ: http://www.city.sendai.jp/taihaku/mati/discover/index.html

45 釜淵の河童

釜淵
釜淵

 釜淵に、いつの頃からか河童が住みついていた。夜な夜な現れては通行人を誑(たぶら)かして釜淵に引きずり込んでしまうのだった。

 力自慢の小源太という若者が噂を聞くと
「ヨシ、その河童は俺がひっ捉えてくれる」
と、ある夜数人の若者を連れて釜淵に来た。
「ヤイ、河童出て来い」
 すると不思議や、峡(たに)に颯(さつ)と一陣の風が吹いて、突然淵の水面がザワザワ波立ち、暗闇が急にスーとほの明るくなってきた。
 すると淵の傍らの岩の上に変な男が立っていて、ニッと笑いながら、右手を上げ
「来い来い」
と招いている。その容貌の怪奇さ、背筋がゾッとする怪しい眼、あたりは異様な空気がみちてくる。

「アッ、お前は誰だ」
小源太は妖気をはらいのけるように大声で呶鳴った。小男は
「どうだ、俺と相撲取らねえか」
と言った。近郷に聞こえた相撲取りだったので、こんな小男に負けるものか、取組んでひっ据えてやろうと思った。
「ヨシ、取る─取るゾ」
大手を払げて小男に躍りかかり四ツにガップリ組んだ。相手は四尺たらずの小男だ。然し、組んでみればどうして、なかなかの力持ちだった。
「エイ」
「ヤア」
「オー」
と掛声勇ましく揉みあっていたが、小源太は次第に旗色が悪くなり、組敷かれてしまった。
「ナニオ」
と必死になって跳返そうともがいたが、どうすることも出来なかった。
 そのうちに小男はズルズル小源太を釜淵に引きずり込んでしまった。「ザブン」と水の音がしたと思うと、あたりはスーともとの暗闇と変ってしまった。この様子を見ていた、仲間の若者達は肝をつぶしてしまった。 

 旅篭(はたご)屋上総屋の一室、亭主からこの話を聞いた客の浪人は、「ほんにその様な妖怪が現れるなら、諸人のために身共が退治してくる」と軒昂(けんこう)として語った。
 そしてその夜旅の浪人は釜淵にやって来たが
「来い来い」
と指し招かれ、
「己、これでもか」
と浪人は斬りつけるが、フワリフワリと体を変わして、
「その腕では、俺を斬れねえゾどうだ俺と相撲を取らねえか」
と小男は初めて言葉をかけた。浪人は
「ナニ相撲だ、小癪(こしゃく)な、ヨシ今度は目に物みせるゾ」
「サア、行くゾ」
「ヤー」
「トー」
と声がすると、意外にも宙に飛んだのは浪人の躰だった。「ザブン」と水の音がして小男の姿も消えてしまった。
 ・・・滝の音が嫋々(じょうじょう)と峡の闇空に響いていた。

   


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