情報提供: ディスカバーたいはく3号
 所在地: 仙台市太白区秋保町
 連絡先: 太白区まちづくり推進協議会
 関連ホームページ: http://www.city.sendai.jp/taihaku/mati/discover/index.html

40 板颪(いたおろし)峠の狐岩

 雨が降りゃこそ 宿駅(馬場)泊り 降らにゃ越します山寺へ 
 どうせ越すなら 夜明けぬ前に 姿見せずに泣かせずに

 若い作太の美しい唄声と「青」の鈴の冴えた音が、初夏の蒸し暑い大気を払いのけるように、峠を越え、樹間(このま)を縫って渓向(たにむ)かいの山脈まで、清々しく展(ひろ)がってゆく。
 作太は照る日も曇る日も、長袋部落から板颪峠を越えて、城下へ木炭を運ぶ荷駄賃(にだちん)取りだった。幼くして父を失ない病弱な母を優しくいたわって、よく孝養を尽くしていた。貧しい生活ではあったが、親子水入らずの平和な暮しだった。

 歩き慣れた山道の帰り峠の頂上にさしかかった時だった。道端の笹藪の中に、何か白いものが踞っている。傍へよってよく見ると大きな古狐だった。肩のあたりから首にかけて血汐が流れ、息も絶えだえになっていた。
 その姿を見て作太は、可哀想になって来た。
「畜生、鷹か鷲にやられたんだナ─貴様はいつも、この峠で人様をたぶらかして、日頃ろくでもねえ事ばかりするから罰があたったんだ貴様─性があんベ、サア、こいつをみな喰わしてやる。
この魚を喰って元気を出すんだ。元気になったらナ、今後は人様に絶対いたづらなどするナ」
と狐に言い聞かせた。
 狐は作太の言葉がわかったのか、うつろな目を瞬いた。

 翌日、作太はいつものように坂颪の峠を登ったが、狐の姿は見えなかった。
「ああ、よかった、よかった」
作太は晴れやかな気持ちになった。

 それから数日は過ぎたある夜、昼の疲れからウトウトしていると戸口に人の気配がした
「あの、もうし・・・」
見れば、いまだ見たことも逢ったこともない、実に気高く、うるわしい女人が立っていた。
「先日あなた様に、お情けいただいた狐は、妾が飼(やしな)っていたものです。
昨日可哀想に死にましたが、死の間際に是非とも心優しい作太どのへ、お礼を申して呉れとのことでした。
ほんとうに有難う御座いました。お礼の印に差し上げたいものがあります。」
「俺、何もいらねえ、俺、ただ狐が可哀想と思っただけだ・・・」
「先日のあの峠の場所から西へ百歩ほど進むと、松の老木があります。その根元を掘ってください。必ず黄金の櫃が現れます。それでお倖せにお暮しください。
妾の狐はその松の傍に岩と化っております。では御機嫌よろしう・・・」
作太はムックリ起き上った。あたりを見廻したが、家の中は何も変っていなかった。
「ハテ、不思議なことだ。」
夢か、現実か─。

 夜の潮が引くと、作太は板颪峠へ行き女人の言葉通りに、老松の根元を掘った。すると櫃が現れ、なおも掘って見ると、それは立派な金櫃だった。中には黄金がザクザク入っていた。

   


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